書庫3

暖房の独白にて綴ってきた雑感雑記 



100円ショップ

雑感雑記
 夕方の雑踏の中を100円ショップへと急ぐ私の周りを急ぎ足の人達が行く。
まるでレースのように皆早足で駅を中心に人の群れは溢れかえっている。
その混雑から少し離れた所に100円ショップはあって、中は落ち着いていた。
人も少なく、ゆっくりと商品を見て回る事が出来て居心地が良かった。
お目当ては物を掛けるフックで、小さなコーナーながらも品揃えは良かった。
私はその中から丁度良いサイズの物を選ぶとレジに並び順番を待った。
私の前には一人の女性客しかおらず、会社名の入った領収書を貰っていた。
きっと会社の頼まれ物なのだろう、その人は大事そうに領収書を仕舞っていた。
それから私の番になり、レシートを貰って品物を袋に入れて貰い店を出た。

 実は風呂場の足拭きマットを掛けておくフックが一つ壊れてしまったのだ。
これは手作りでセットしたものなので付け替える必要があっての買い物だった。
フックには吸盤が付いており、それをコーキングで密着させてセットしていた。
新しいフックも同じように取り付ける積りで、浴室のドアの両脇に付けてそこにこれまた100円ショップで買った園芸用の棒を掛けておき、そこに足拭きマットを掛ける仕組で、これだとスペースを殆ど使わずに掛けて乾かせるので便利なのだ。

 外へ出ると店内が暖かった分だけ冷たい風が身に染みて、目の前の人々が寒そうにしているのを見るのも嫌な気がしたが、人込みの中へ紛れ込んで行った。
私は一瞬で外の人となり、人込みの一部となり、群れの内の一人となった。
家へ帰ろう、そんな気持が湧いてきて、風に身を包まれながらも急いで歩いた。
左手に持ったビニール袋ががさがさと鳴り、その度にどうやってそれを取り付けるかという事が気になって仕方が無く、工程を想像してはうっかり前の人に近付き過ぎてははっと気付きながら歩き、何とか群れの勢いに混ざって行った。

 ちょっとした事で家の役に立つというのは男にとっては少し嬉しい事だ。
これは私がこう工夫して付けた物、これはあの時にアイディアを出して作った物、そんな物達が家には結構沢山あって、そこにはちょっとした充足感がある。
よし、俺に任せろ、なんていう台詞が自然と湧いてきてやる気になるのである。
上手く出来たわね、などと言う言葉を聞こうものならなおの事嬉しく、つくづく男というものは煽てに弱いものだなあと実感しながらも満更ではなく、腕組みする。

 駅を通り過ぎて次第に人の数は少なくなり、やっと落ち着いた家路となる。
急ぐ自転車やスーツ姿の群れはいるものの、そこは何時もの道、気楽なものだ。
どうやって今のフックを剥がすか、コーキングの在庫はあったかなどと考える。
足元の枯れ葉は驚く程増えていて、時折渦を巻いて流されながらからころと音を立て、道の一部ででもあるかのようにごく自然に動き回っていてぶつかってくる。
考えてみれば十一月も半ば、秋は終りに近く、冷え込むのも当たり前だった。
今年の秋は短く、冬はあっと言う間に訪れて来るだろうと思うと、そろそろコートも暖かい物を選んで出しておかなければと思い、セーターも引っ張り出そうと思う。
冬支度という新たな仕事がこうしてでき、何となく忙しいような気がしてきた。
やる事は一杯ある、それを済ませてさっさと気楽になろう、そんな風に思った。
秋か冬か分からない風が私の背中を押して、枯れ葉と共に通り過ぎて行った。



次の記事   足場 >>